2017.11.15 13:55夜硝子のフォンデュ 扉が閉まると夜が来る。燭台切光忠はそれを知っていた。 人工的な白で埋め尽くされた世界の中で、象徴とも言える少女が消えると、この本丸には夜が来る。人形は死んだように倒れ、神様は眠りにつき、亡霊はいつまでも佇み続ける。そんな夜だ。 かちゃりと扉が閉じる音が聞こえる。それは...
2017.09.12 12:41Mr.バロッテはかく語り 人生というものは不純物の塊だ。自身の意志という不確かな要素は勿論の事、親の経歴、生まれ、環境、奇跡、偶然、必然、まぐれ、たまたま、きまぐれ、起こるべくして起こる事。そんな理不尽な物が小さく小さく小さく凝縮された物を、人は人生と呼ぶ。 俺はそんな不純物だらけの人生が大好きだ。所謂...
2017.06.28 14:03星屑へのエシャペ-2「あーあ。彼女は帰ってしまったのか」 階段の手すりに顎を乗せた鶴丸がぼやいた。面倒くさそうに顎を乗せているくせに、喋る時には顎を動かさずに頭を動かす。器用なやつだと呆れながらも、自分を咎めているのだろうかと眉を潜めた薬研の事を、鶴丸がふふりと笑った。「やれ、藤四郎の刀にしては自我...
2017.06.19 14:15星屑へのエシャペ-1 薬研藤四郎はこの場所で一日に何度も、何度も自分は一体何かと問うた。その度に自分は刀という名の武器であると答えた。幾度となくその問答を繰り返し、飽くほど奥歯で噛み砕いては飲み込んだ。舌の上がざらつくまで言葉を飲み込んでは息を吐いた。そうしなければ、薬研藤四郎は自分が何ものなのかも...
2017.04.16 07:56白骨とアンレール「本当にこれで良かったのかしら」 ほつりと少女が零した。白い空間に柔らかく蕩けるように消えた言葉は、けれども同じく白く柔らかな毛並みを持つ小狐丸の元にはしかりと届いた。「これで、とは?」 小さな子供をあやす様な優しい言葉で問えば、少女は困ったように首を傾けた。「全部の、こと?」 ...
2017.03.27 13:00喪失とエカルテ それは白い部屋の中だった。所々草臥れた様子のある、けれども美しい部屋だった。青い壁紙を強引に上から塗りつぶしたような白い壁は、本丸で二番目に来た一期一振が見た時から既にその様だった。少女の部屋は、そうした少しばかり不思議な人工の白の上にあった。一度、初期刀に何気なく訪...
2017.03.23 09:42プロムナード 小さな頃はバレリーナに憧れていた。 エトワール、プリンシパル。呼び方はどれでも良かった。幼い私は、花嫁のベールによく似た、チュチュ越しに見えるきらきらと淡く光る足、丸く可愛いトウシューズ、それから、反る指先の美しさ。レースのカーテン越しに見る、早朝の冷えた空気のように繊細な仕草...